【知っておくべき要件と注意点】遺言書の効力

こんにちは。行政書士・社会福祉士の野澤です。
遺言書は、相続における被相続人の最終的な意思を明確に示すものであり、相続手続きを円滑に進めるために欠かせない重要な文書です。
遺産の分配に関する具体的な指示や特定の相続人への思いを反映することで、遺産争いを未然に防ぐ役割を果たします。

しかし、遺言書が常に絶対的な効力を持つわけではありません。
法的な要件を満たしていない遺言書は無効となる可能性があり、遺留分という一定の法定相続人に保証された相続分を侵害する内容の遺言も、その部分については無効となることがあります。

そこで今回は、遺言書の効力を確保するための要件と、それに従わなくてもよい場合について、詳しく解説します。
具体例を交えながら、遺言書作成時に注意すべきポイントや、無効となる可能性のあるケースについても掘り下げていきます。遺言書を最大限に活用するための知識を深め、相続に備えましょう。

目次

遺言書の法的優先性

遺言書は、被相続人(故人)が自身の遺産の分割方法や相続人を具体的に指定するために作成する文書であり、法定相続よりも優先されます。

具体的には、遺言書が存在する場合、相続は民法に基づく法定相続分ではなく、遺言書に記載された内容に従って行われます。
例えば、被相続人が特定の親族や友人に財産を残したい場合、遺言書にその旨を明記することで、その人物に確実に財産が渡るようにすることができます。
また、遺言書を用いることで、法定相続分では公平に分割されない財産(例えば、事業の経営権や特定の不動産)を意図した形で相続させることが可能です。

さらに、遺言書は、遺産分割に関する紛争を未然に防ぐ役割も果たします。
被相続人の意思が明確に示されるため、相続人間でのトラブルを避ける効果があります。
なお、遺言書には法的な要件があり、これを満たしていない場合は無効とされることがあります。

有効な遺言書の要件

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類があり、いずれも有効であるためには、民法に定められた形式的要件を満たす必要があります。
それぞれの遺言書について、詳しく説明します。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が自分で全文、日付、および氏名を手書きで記載する必要があります。
これにより、遺言の内容が遺言者本人の意思によるものであることを確認します。
また、自筆証書遺言には押印が必要です。
この形式は、手軽に作成できる一方、紛失や改ざんのリスクがあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人と証人2名の立会いのもとで作成されます。
この形式の遺言書は、公証人が遺言者の意思を確認し、遺言の内容を記載するため、法的に確実性が高いとされています。
また、作成された公正証書遺言は、公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、遺言者の死後に遺言が確実に実行されることが保証されます。
公正証書遺言を作成するためには、公証人手数料がかかりますが、その分安心感があります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が自分で内容を記載した後、それを封筒に入れて封をします。
その封筒を、公証人と証人2名の前で提出し、公証人が遺言書の存在を証明します。
この形式の遺言書は、内容を他人に知られずに作成できる一方で、遺言書の内容が法的に有効かどうかの確認が困難な場合があります。秘密証書遺言もまた、公証人手数料がかかります。

遺言書が無効となる場合

遺言書が無効となる場合には、いくつかの典型的なケースがあります。
それぞれのケースについて詳しく説明します。

複数の遺言書があり、内容が矛盾している場合

遺言者が複数の遺言書を作成し、その内容が互いに矛盾している場合、後に作成された遺言書が有効とされるのが一般的です。
しかし、遺言書の内容が一部だけ矛盾している場合には、その部分についてのみ無効とされる可能性があります。
また、遺言者が複数の遺言書を作成した意図や状況によっては、遺言の全体的な有効性が裁判所で争われることもあります。
このような場合、どの遺言書が最終的な意思を反映しているかを明確にするための証拠が重要となります。

遺言書作成時に遺言能力がなかった場合

遺言者が遺言書を作成した時点で、遺言能力(意思能力)が欠けていた場合、その遺言書は無効となります。
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、自分の意思で遺言を作成する能力のことを指します。
具体的には、遺言者が認知症や精神疾患などにより、自分の財産やその分配方法について合理的に判断できない状態であった場合が該当します。
このような場合、医師の診断書や証人の証言などを通じて、遺言能力の有無が証明されることが多いです。

民法に定められた形式的要件を満たしていない場合

民法に定められた形式的要件を満たしていない遺言書は無効となります。
形式的要件とは、遺言書の作成方法や記載事項に関する法律の規定のことです。
例えば、自筆証書遺言の場合、全文、日付、氏名を自筆で記載し、押印することが求められます。これらの要件の一つでも欠けていると、その遺言書は無効とされます。
公正証書遺言や秘密証書遺言についても、それぞれの形式に応じた要件があり、例えば公証人や証人の立会いが欠けている場合などは無効となります。

遺言書に従わなくてもよい場合

遺言書が有効であっても、以下のような特定の状況においては、その遺言書の内容に従わなくてもよいことがあります。
それぞれの状況について詳しく説明します。

新しい遺言書が存在する場合

遺言者が新しい遺言書を作成した場合、一般的には最新の遺言書が有効とされます。
これは、遺言者の最終的な意思が最新の遺言書に反映されていると考えられるからです。
新しい遺言書が作成されると、以前の遺言書はその内容が新しい遺言書と矛盾している部分について無効となります。
遺言者が複数の遺言書を作成した場合には、新しい遺言書が前の遺言書を「破棄」する旨を明記していることが望ましいです。
これにより、遺言執行時に混乱を避けることができます。

相続人全員が合意している場合

遺言書の内容に相続人全員が同意しない場合でも、全ての相続人が合意すれば、遺言書の内容に従わずに遺産分割を行うことができます。
これは、相続人全員の合意がある場合には、遺言書の内容に優先して遺産分割協議を行うことが可能であるという民法の原則によります。
具体的には、遺産分割協議書を作成し、全員が署名・押印することで、遺言書とは異なる方法で遺産を分割することができます。

遺留分の確保

遺言書がある場合でも、相続人には「遺留分」が保障されています。
遺留分とは、一定の法定相続人が最低限取得できる相続分であり、遺言者が遺言書で全財産を自由に処分することを制限するものです。
遺言書が遺留分を侵害している場合、相続人は遺留分侵害額請求を行うことができます。
これにより、遺留分を侵害されている相続人はその不足分を回復することができます。

遺留分の割合

遺留分の割合は法定相続人の関係に応じて異なります。具体的な割合は以下の通りです。

配偶者と子供(代襲相続人を含む)

配偶者と子供が相続人である場合、遺産の半分が遺留分として保障されます。
配偶者と子供がそれぞれの遺留分を取得することになります。

【例】
遺産総額が1億円の場合、遺留分は5,000万円。
配偶者と子供1人が相続人である場合、それぞれ2,500万円ずつが遺留分となります。

直系尊属(親など)

直系尊属が相続人である場合、遺産の1/3が遺留分として保障されます。

【例】
遺産総額が1億円の場合、遺留分は3,333万円です。
直系尊属(親)が2人いる場合、それぞれ1,666万円ずつが遺留分となります。

相続の放棄

相続人は、遺言書の内容にかかわらず、相続を放棄する権利を持っています。
相続放棄とは、相続人が被相続人(故人)の財産や負債を一切受け取らないことを決定する法的手続きです。
これにより、相続人は相続財産に関する権利や義務から解放されます。

相続放棄の効果

相続放棄が確定すると、以下の効果があります。

  • 相続人の地位の喪失:相続放棄をした相続人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。
    これにより、その相続人は被相続人の財産や負債を一切受け取ることができなくなります。
  • 次順位の相続人への相続:相続放棄をした相続人が相続から除外されるため、次順位の相続人が相続を受けることになります。
    例えば、第一順位の相続人(子供)が相続放棄をした場合、第二順位の相続人(親)が相続人となります。

相続放棄の注意点

  • 期限の厳守:相続放棄は相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。
    この期間を過ぎると、相続放棄はできなくなります。3ヶ月の期間内に判断が難しい場合には、家庭裁判所に対して「熟慮期間の延長」を申請することができます。
  • 負債のリスク回避:相続放棄は、被相続人の負債を引き継ぐことを避けるために有効な手段です。
    ただし、放棄した相続人は相続権を完全に失うため、被相続人の財産も受け取ることができなくなります。
  • 共同相続人への影響:一人の相続人が相続放棄をすると、その相続分は他の相続人に再分配されます。相続放棄を決断する際には、他の相続人との話し合いも重要です。

さいごに

ご紹介しましたように、遺言書は常に絶対的な効力を持つわけではありません。
形式的要件を満たしていなかったり、遺留分を侵害するなど、極端な内容である場合、逆に争いを招く可能性があります。
そのため、遺言書を作成する際には、これらの点を十分に考慮して慎重に作成する必要があります。
当事務所では、相続や遺言書作成に関するご相談を承っております。
少しでもご不安な点やご質問がございましたら、お気軽にご相談ください。初回相談料は無料ですので、どうぞ安心してお問い合わせください。

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