こんにちは。行政書士・社会福祉士の野澤です。
特定の相続人に多くの財産を遺したいと考えて生前贈与を行ったものの、相続が発生した際にその贈与が「特別受益(とくべつじゅえき)」として、他の相続財産に含まれてしまうことがあります。
特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から受け取った利益のことを指します。
特別受益を遺産に含めて遺産分割をすることを「特別受益の持ち戻し」といいます。
例えば、遺産が5,000万円、相続人が長男、次男の二人で、生前に長男に1,000万円贈与していた場合。
法定相続分を基準にすると2,500万円ずつ相続することになりますが、生前贈与の1,000万円を特別受益として遺産に含めて計算し、長男は2,000万円、次男が3,000万円相続するということです。
これは、公平な遺産分割という観点では有効ですが、生前贈与の意図が無効化される場合があり、結果として故人の意思が尊重されない事態が発生することも少なくありません。
そこで今回は、遺志を確実に尊重するための、「特別受益の持ち戻し免除」について解説します。
特別受益の持ち戻しとは
「特別受益の持ち戻し」とは、相続人の中で特定の人が生前に故人から特別な贈り物や支援を受けた場合、その金額を相続のときに考慮するというものです。
具体例としては、以下のようなものが特別受益とされます。
・結婚時のお祝い金や持参金
・家の購入資金の援助
・事業を始めるための資金援助
・学費の支払い
・故人が肩代わりした借金の返済
特別受益は、遺産分割協議の場で相続人全員と話し合って決めます。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所で調停や審判を受けることもできます。
特別受益の評価は、相続開始時を基準とします。過去に贈与された対象物の価値を、相続時の価値に評価し直して(物価や地価の変動などを反映)、特別受益の額として算定します。
特別受益の証拠としては、被相続人の預金通帳や取引履歴の送金履歴、クレジットカードのカード詳細、メールのやり取り、日記・メモなどが挙げられます。
ただし、金額が少額の場合は特別受益とはみなされない可能性が高いです。
持ち戻しには時効がないため、昔の贈り物でも相続時に影響することがありますが、遺留分に関しては10年以内の贈与のみが対象となります。
特別受益の持ち戻し免除
特別受益の持ち戻しは、相続額を公平にするためには有効ですが、被相続人(故人)の遺志にそぐわない場合もあります。
例えば、先述の例で「長男に次男より多く財産を遺したい」ということが被相続人の遺志であった場合。
特別受益の持ち戻しがおこなわれない方が、遺志を尊重することになります。
そこで重要なのが、「特別受益の持ち戻し免除」の措置を講じることです。
特別受益の持ち戻し免除とは、生前贈与を相続財産に含めないように故人が意思表示をし、特定の相続人に財産を確実に残せるようにする仕組みです。
持ち戻し免除が認められるケース
特別受益の持ち戻し免除は、以下の3つのケースで認められることがあります。
1. 明示の意思表示がされているとき
遺言書や贈与契約書にて、「特別受益の持ち戻しを免除する」と明確に記載されている場合です。
2. 黙示の意思表示が認められるとき
贈与の内容や金額、動機、贈与者と受贈者との関係、経済状況、他の相続人への贈与内容や関係性を総合的に考慮して、黙示の意思表示があったと認められる場合です。
3. 婚姻年数20年を超える配偶者への居住用不動産の贈与
配偶者への贈与の場合、長年の婚姻関係を考慮し、特別受益として扱われないことがあります。
明示の意思表示が確実
「黙示の意思表示」があったかどうかの判定が非常に難しいため、「明示の意思表示」をしておくと確実です。
「明示の意思表示」とは、被相続人が特定の贈与について「持戻しを免除する」という意思を明確に示した書面を残しておくことです。
この書面は形式に関係なく、贈与契約書や遺言書、その他の書面でも問題ありません。
遺言書に生前贈与財産を特定し、その財産を贈与したことと、持戻しを免除することを記載するケースが一般的です。
また、遺言書の付言事項に持戻し免除を記載することもあります。
明確な意思表示がされている場合、持戻し免除に関して争われることはありません。
持ち戻し免除意思表示は遺留分には対抗できない
特別受益の持ち戻し免除を行った場合でも、遺留分算定の基礎財産には特別受益を含めなければなりません。
先述の例でいうと、特別受益1,000万円、遺産5,000万円、を合計して6,000万円から遺留分を計算します。
子の遺留分は法定相続分の2分の1ですので、1,500万円です。
仮に5,000万円を長男に生前贈与し、遺言書で持ち戻し免除を行ったとしても、次男の相続分が遺留分を下回るため、次男は1,500万円まで遺留分侵害請求を行うことができます。
特別受益の持ち戻し免除を行う場合には、遺留分には対抗できないことを考慮して行う必要があります。
さいごに
特別受益の持ち戻し免除を行うことで、生前贈与を遺産分割の対象外にでき、遺産を希望通りに分けやすくなります。
相続対策として、生前贈与をする際は、持ち戻し免除もセットにしておくと効果的です。
持ち戻し免除を行うにはいくつかの方法がありますが、一番確実なのは、遺言書に明記しておくことです。
ただし、他の相続人が不公平だと感じ、遺言の無効を主張するリスクもありますので、その分割割合にした理由を明記するなど工夫することが必要です。
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